2016年5月1日日曜日

中国史/古代/春秋戦国

 戦国時代の社会経済的変化② 

 戦国時代の社会経済的変化は「宗族の崩壊」ともう1つあります。

 それは「商人の台頭」です。

 「士農工商」という言葉があるように,商人の身分は最下位でした。扱いは犯罪者とほとんど変わらないです。

 周が成立したのち,殷(商)の人々は自分たちの国を失い,各地を放浪していました。このとき,彼らは放浪先の魯(ろ)で手に入れた特産品を,次の放浪先の斉(せい)で売り払って生活費を得るという仕事を始めました。各地の都市(邑)に定住している人々は,殷(商)の人々がやって来ると,自分たちの地元では手に入らない珍しい物を手に入れ,代償として余っている物を彼らに渡しました(主流は物々交換。宝貝や子安貝の殻を貨幣として使う「貝貨」はありましたけど)。こうしたわけで,品物を売買することを「商業」,売買する人を「商人」と呼ぶようになった……という話があります。

 商人(殷の人)は「負け組」なので,出だしから周の人に蔑まれる立場にありました。そのうえ商人は,生産にまったく寄与せず,人が精魂込めて作ったものを,右から左に受け渡すだけで利益を得ているので,「盗人扱い」されました。運ぶだけなら無償でやれ,というわけです。

 物々交換経済で,商品の多くが農産物なので,交易の範囲はごく狭い範囲でしたし,商人の手元にはさほど利益は残りませんでした。何せ農産物はやがて腐敗するので,長距離運搬・長期保存には向かなかったのです。

 ところが,戦国時代に入り,青銅貨幣が用いられるようになります。諸侯は富国強兵のために競って青銅貨幣を鋳造したので,ずいぶんと普及しました。商人はアワだのコメだのを青銅貨幣に交換することで,たくさんの富を蓄積できるようになりました(アワをたくさん蓄えてもやがて腐るだけだけど,青銅貨幣ならいつまでも腐らないからです。錆びて青くなるけど)。

 ちなみに,受験では青銅貨幣の整理が頻出です。


  • 布銭 :韓,魏,趙 / 農具を象ったもの(凸っぽい
  • 円銭 :秦 / 「天円地方」を象ったもの(つまり円形。穴は四角
  • 刀銭 :斉,燕 / 刀を象ったもの
  • 蟻鼻銭:楚 / 蟻の頭を象ったもの(つぶつぶ


 考古学的調査をもとに青銅貨幣の流通範囲を復元すると,すでに地中海交易圏や北海・バルト海交易圏クラスの広大な交易圏が中国に生まれていたことがわかります。各国が商業育成に力を入れたこともあって,王を上回る権勢を誇る富裕な商人も生まれました。マンガ『キングダム』で有名になった,秦のキングメーカー呂不韋(りょふい)が有名です。

 これが「商人の台頭」です。

 戦国時代には戦争の主役も変わりました。それまで戦場に立てるのは,下級貴族の「士」以上の身分のものに限られており,彼らが操る「戦車」「弓矢」が戦争の主役でした(まさに「武士」の「士」)。ところが,戦国時代には徴兵制が広く行われ,農民が兵卒として動員されるようになります(そうでなければ,『キングダム』の主人公「信」は従軍できませんでした)。軍隊は文献で「六十万」「八十万」「百万」と表現される規模に拡大しました。農民が戦争の主役となり,一方,「士」は戦争の脇役に転じて,その役割を失います。

映画『英雄HERO』より。見るものを圧倒する軍隊。

 こうして,西周以来の封建的な身分秩序はすっかり崩壊しました。「士農工商」の「士」が没落し,「商」が成り上がったのがその象徴です。各国は封建制に代わるシステムを模索し,試行錯誤します。結局,秦がどこよりも早く「郡県制」と呼ばれる中央集権体制を完成させていくことになりますけど。

 なお,そうした中,各国を遊説して数々の政策を提案する集団が現れました。彼らを「諸子百家」と呼びます。



【関連】
戦国時代の社会経済的変化①「宗族の崩壊」編
[中国史]春秋戦国時代


1 件のコメント:

  1. 初めまして。

    キングダム面白いですよね。

    歴史に対する興味も強くなります。

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